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 人間工学



□ 動作・行動の特性と空間



− 1 − ポピュレーションステレオタイプ


人間の動作や行動は一見したところでは、一人一人が違っていて共通性がないように見えます。

しかし集団としてまとめて観察すると、ある程度共通のパターンとしてとらえることができます。

例えばドアのノブを握ったとき、無意識のうちに、時計回りの方向に回す人が多く、反対方向に回す人は少ないといったようなことです。

このような1つの傾向とかくせとかを、ポピュレーションステレオタイプと言います。


道具を設計したり機器を設置するときは、そのことを考慮しておかないと、使いにくくなったり混乱を起こしたりもします。

特に安全に関するものについては、その配慮が必要になります。

冷蔵庫やロッカーの扉は右利きの人が多いために、右手で使って操作しやすいようにつくられています。

しかし日本人の場合は左利きの人も数パーセントいますので、それを配慮する必要があります。

刃物の刃の付け方も、同様です。テレビやステレオのボリュームのつまみは、時計回りに回すと大きくなるようにつくられていますが、ガス器具では右回りが閉栓、左回りが開栓となっています。これはひとえに安全を考えたためです。


ドアの取っ手には押す場合と引く場合がありますが、取っ手がその動作のし易いようにデザインしてあれば、迷うことがないので便利です。


ところで、このようなくせは、国際的に共通しているわけではなく、地域や民族によっても違いがあります。

ノコギリを例にとってみれば、日本では引いて切りますが、欧米では押して切ります。

カンナについても同様に方向が逆になっています。

そのため、輸出品などを設計するときには注意しなくてはなりません。

家具の配置についても欧米と日本とでは違いがあります。

部屋の中に机を置くとき、日本人は窓に向かって置くことが多いですが、西洋では入り口に向かって置く傾向が見られます。



− 2 − 距離と集合


(1)人と人と距離

人間は何らかの形で、他人と関わりをもちながら生活を営む社会的動物です。

家庭や近隣、学校や会社で他人と同じ場所に居合わせることになりますが、その時相互の関係や状況に応じて、自分に都合のいいように、他人との間に距離を保とうとします。

関わり合いを持ちたくない人とはなるべく距離をあけようとしますが、親しい人との場合にはできるだけ近寄って、会話のしやすいような位置を占めます。

会社の上司の場合には、つかず離れずの距離を保ちながら、コミュニケーションが絶たれないように気を使います。


文化人類学のエドワードT・ホールはこうした状態について、その著者の中で4つの距離があると述べています。

1、密接距離…非常に親密な関係の人間同士の場合にとられる距離で、身体を密接させるか手で触れ合う。

2、個体距離…親しい間柄の友人などの間でとられる距離で、相手の表情が詳しくわかり、匂いも感じることができる。

3、社会距離…個人的な関係のない人同士の間でとられる距離で、お互いに普通の声で話し合える。

4、公衆距離…関わり合いの範囲外にいて、一方的な伝達に用いられる距離である。声は大きくなり、話し方も変わってくる。

以上は人間相互の距離の取り方について述べましたが、これは国民性や文化の性格によっても違ってきます。

インテリア空間を計画するにあたっては、そうしたことも考慮に入れる必要があります。



(2)パーソナルスペース

動物学者ヘディガーは、それぞれの動物は一定の大きさの泡(バブル)にも似た不規則な形の、風船のようなものが身体のまわりについていて、それらが相互に重なり合わないようにする個体間の位置というものがあります。

また異種間では、それが一定の距離を保っているといいます。


環境心理学者のK・ソマーは、これと同様なことが人間の場合にも当てはまると考えていて、「人間には他人が容易に入り込めない身体を取り巻く気泡のような、目に見えない領域がある。」といっています。これをパーソナルスペースと名付けました。


パーソナルスペースが侵されると、プライバシーを侵されたときしおなじような感情をおこし、不安やストレスを感じます。

またこの領域は必ずしも球形ではなく、各方向に不整形に広がっていると説明しています。


パーソナルスペースの大きさは、性別、民族、文化、地位、あるいは対応する人と人との関係などによって、微妙な違いがあることも確かめられています。

例えば、男性は前方に他人がいるのを嫌がるのに対し、女性は周囲から他人に見られるのを嫌う傾向がある、といったようなことです。



(3)ソシオペタル・ソシオフーガル

会議や食事の場では、人間はコミュニケーションしやすいように、お互いが向き合うように座ります。

ところが図書館、ホテルのロビー、駅の待合室などでは、プライバシィが保てるように他人と離れて座ったり、背中合わせに座席を占めたりします。

何人かの人が1つの空間の中で時間を過ごすときは、目的に応じてある集合の形がつくられます。

インテリアを計画するには、こうした「集まり型」を想定する必要があります。

会議や団らんで取られる対面式の集合の形をソシオペタルといいます。

一方他人になるべく関わり合いを持ちたくない場合は、相互の間に距離を置くか、もしくは身体の向きが反対になるような位置をとります。

このようなプライバシィを優先した離反の集合の形を、ソシオフーガルと呼びます。

これらの中間の形で、相手からは見られているが、見られる側からは、簡単に相手を見ることができない集まりの形もあります。




− 3 − 物理尺度と心理尺度



ふつう設計の場合には物理的な尺度を用いりますが、インテリアを設計する場合には、心理的な尺度についても考慮する必要があります。

人間が自然の状態で話し合える範囲は、、スキンシップかタッチャブルの範囲でしかありません。

距離が遠くなると声が大きくなったり、話し方が不自然になったりします。

またお互いの関係位置が変わると、会話の内容も無意識のうちに変わってきます。


例えば身の上相談をするときには、正面に向いあうと話しにくいですが、斜にして視線をそらすと気楽に話せたりします。

学童と家庭教師についても同様で、机を挟んで正面に向かい合うよりも、直角の位置に座った方が能率は上がります。


また親しいもの同士は、並んでふれあうように座った方がよい、といったようなことです。

講義室では情報伝達の速度は、距離が遠くなると減っていく傾向があるので、収容定数よりも狭く見えた方が有効な場合もあります。


しかし、劇場では逆で、広く見せた方がお客は満足します。

コミュニケーションの効率を高めるためにもう1つ大事なことは、視線の高さをそろえることです。

視線に段差ができると親密感が減ります。

教室の教壇も講堂の演壇も、視線の高さに段差ができるのでスキンシップの対話を妨げることになります。これも設計にあたって注意が必要になります。


もう1つ付け加えておきたいものに、見え方の問題があります。

例えば同じ6畳の部屋でも、洋間の方が日本間より狭く感じる、といったようなことです。

日本間では平座の姿勢をとりますので、顔の動く範囲が制限されるうえに、目の位置も低いです。

洋間は身体全体を動かせるので、目の動く範囲も広く、位置も高いため、洋間の方が狭く見えるのです。

同じことは窓の外の景色の見え方についても言えます。

マンションの一階と10階とでは部屋の広さの感じ方が違ってきます。


高いところと言えば、人間工学的な問題が2つあります。

1つは住み心地の問題で、もう1つは作業能率の問題です。後者は高所恐怖症にかかることですが、これは主として視界と振動が関係しています。

視線を遮ると効果があがるという体験値がありますが、それをどの程度まで、またどのような方法で調べたらよいかが研究の対象になります。

6〜8畳程度の広さの部屋をつくり、天井の高さを次第に低く下げていくと、270〜230センチくらいまでの間は、室内の感じにそれほど差はありませんが、220センチを切ってそれよりも低くなると、ひどく圧迫を感じるようになります。

その差はわずか10センチほどですが、このあたりを境にして、視覚による室内の性格は大きく違ってくる傾向にあります。

水平方向についても同じような傾向が見られます。部屋の幅が270センチあたりを境にして、急に狭く感じるといったようなことです。

以上に述べたことは、物理的な尺度と感覚的な尺度とは、直線的な関係にはないということてす。

機器の機能寸法についても同様な事情があって、ある数値を境にして、急に使いやすくなったり使いにくくなったりします。これも注意したいことです。



− 3 − 人間の占める位置


空間の中には、人間が無意識のうちに占めたがる席や、好んでとどまりたがる位置があります。

特に大勢の人たちが集まる公的な空間を持つ駅の待合室や、ホテルのロビーなどで、待ち合わせをしている人々を観察してみると、そのことに気が付きます。

大きな建物の中は均質ではなくて、見通しのきくところ、物陰で目立たないところ、静かなところ、にぎやかなところなど、それぞれの小空間は特性を持っています。

レストランや喫茶店では、中央の部分よりも壁際やコーナーの席がまず埋まるのは、そのためです。

通勤電車もロングシートの端のところに座る人が多いですね。

生態学の分野では、これを「隅の効果」と呼んでいます。動物園の檻の中でもそういった傾向がみられるので、その名前が付けられたようです。

このような行動は、人間自身のもつ習性と、空間の特性とによってあらわれるものです。こうした側面もインテリアを計画するときには参考になります。


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